転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします



3月下旬。
オフィスコーデに薄手のコートを羽織り、ジーマ片手にパンプスを引きずるようにとぼとぼと夜道を歩く。

ふと顔を上げると三分咲きの桜が春の訪れを告げていた。近くのベンチではカップルが人目をはばからずイチャイチャと肩を寄せ合っている。


「…何であんな楽しそうなの」


そんなに顔も整っていないのに。

ボソッと悪態をついてしまい、思わず深い溜息が出た。


美人は得をする?そんなの嘘だ。この整った容姿のせいで、セクハラされて退職した私のどこが得をしているのか教えてほしい。

ちなみに今日が最終出勤日だった。明日から私は願ってもいなかったニートになる。そのせいか、目に映る全てのものが鬱陶しく思えた。


「転生したいなぁ」


いっその事普通の人間(・・・・・)に生まれ変わってやり直したい。最近小説や漫画でも転生物をよく見かけるし、私もどこかに頭を強くぶつけたら転生出来たりして。

若干アルコールが入っているからか、そんなしょうもない事を考えながら歩いていれば、ふとある物が目に入り、ピタリと足を止めた。


< 3 / 324 >

この作品をシェア

pagetop