転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします


「てかさ、恋人になったってことは、もうやったわけ?」

「……」

「……」

「……」

「…え?なにこの沈黙」


小山の問いかけは、聞こえなかったことにした。目の前できょとんとしてる男から視線を逸らし、静かに煙草を咥えていれば「まさか、うそだろ?」と驚きの声が耳に届く。


「…一緒に住んでんのに、キスすらしてない」

「は?!」

「尊すぎて何も出来ない」

「え?マジで?え?やばくね?てか一緒に住んでんだ?」

「タバコ臭いって言われんのも嫌だし、スッピンで部屋着のあの無防備な感じがまた天使みたいで、俺が触ったら汚れるんじゃないかと思うと…。同じベッドで寝るのもしんどいから、ここ最近ずっと会食があるって嘘ついて遅い時間に帰ってた。ベッドなんか買うんじゃなかった」

「……付き合ってんだし、気にせずすればよくね?」

「無理だろ。初恋の相手だぞ」

「俺なら我慢出来ねえわ」

「このクズ」


俺をお前と一緒にすんな。初恋だけならまだしも、俺は紗良以外の女に惹かれたことがない。

てことは、好きな女と付き合うのも勿論初めてなわけで。俺の恋愛偏差値は、そのへんの小学生と変わらないってこと。


「やるやらないの前に、俺はまず紗良に何をしてあげればいいのか分からない」


とにかく、もう後には引けない状況だ。1年後、紗良が「楽しかった」と笑ってくれるように、俺に今出来ることを考えなければ。


「…でも俺、紗良に“泣かせたい”って言っちゃったんだよな…」

「え、それはキモくね?」

「“縛られるより縛りたい”も言った気がする」

「…お前、もしかして1年どころかすぐフラれるんじゃ…」

「……自分でも間違えたなって思うけど、お前そこは慰めろよ。てことで、やっぱクビ」


どうしよ。先が思いやられる。

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