転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします


「はは、すっかり噂になってますね。でもまだ婚約者は決まっていないので」


彼が政略結婚することは、どうやらこの辺では有名な話らしい。なんだか、罪悪感を覚えてしまう。

だってこの社長も、まさか私が秘書兼恋人だなんて思わないと思うから。婚約前の男が、他の女と付き合っているなんて…もし誰かに知られてしまったら、彼のイメージダウンに繋がるんじゃないかと不安になる。


「それにしても綺麗なお嬢さんだ」

「でしょ。いくら二階堂社長が良い男でも、岬は譲りませんよ?」


私の不安を余所に、逸生さんはそう言うと、そっと私の腰を抱き寄せた。

マンションにいる時でも触れてこないくせに、どうしてこんな時に限って恋人みたいなことをするのだろう。


「…専務、」

「ははは!やっぱ九条専務は面白い人だな。こんなに綺麗な女性を私の秘書にしたら、嫉妬した妻に刺されるよ」


慌てて彼の手を押しのけようとしたけれど、二階堂社長が大きな口を開けて笑った同時、ゆっくりと離れていった熱に、ほっと安堵の息が漏れた。


「綺麗なだけでなく、冷静で仕事も出来そうな秘書さんだね」

「そうですね、秘書経験はまだ浅いですが、何にでも向かっていくガッツはあります」


それは、電柱に向かっていったことを言っている?

何だか褒められた感じはしないけど、ふたりが楽しそうにしているから、反論はせず会釈だけしておいた。

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