新そよ風に乗って 〜時の扉〜
「ん? 何がだ?」
何がって、高橋さん。
「その……私、酔ってしまって……」
「気分はどうだ?」
「えっ? あの……」
「起き抜けはそこら辺のオヤジと一緒ね。でもシャワー浴びたら、だいぶ復活したみたいだから」
「ちょ、ちょっと、折原さん!」
何を言い出すんだろう。嫌だ、恥ずかしい。
「だって、本当のことじゃない。でも復活してくれて良かったわ。起きられなかったら、どうしようかと思ってたから」
「す、すみません」
「それなら良かった」
高橋さんは、何事もなかったように、普通に話してくれている。それが尚更、昨日の行動に、後悔というか、醜態を晒してしまったことが悔やまれた。
「本当に、申し訳ありませんでした」
「ちょっと、耳貸せ」
エッ……。
すると、高橋さんが私の耳元に顔を近づけた。
な、何?
「何も覚えてないだろ?」
うっ!
小声で言われて慌てて高橋さんを見ると、悪戯っぽく笑っていた。
「はい……」
「さあ、食べるわよ」
「は、はい」
急いで席に着き、あまり食べたくなかったが、食べないと二日酔いは治らないと折原さんに言われ、おかゆとフルーツを少しだけ口にしていると、後ろが何やら騒がしくなって、高橋さんの周りにあっという間に人が集まっていた。
「昨日、どちらに行かれていたんですか?」
「捜しましたわよ?」
「お部屋にもいらっしゃらないし、宴会場から出てからどちらに行かれていたんですか?」
凄い。
土屋さんや紺野さん達が、朝から全開で高橋さんに詰め寄っている。
「すみません。いろいろなところに顔を出していたので、擦れ違ってしまったのかもしれませんね」
「そうなんですの?」
「それは、残念だったわ」
高橋さん……。
「だから言ったでしょ?」
「えっ?」
折原さんが、小さい声で私に話し掛けてきた。
「高橋は、全くスネーク女達に興味ないから、上手くかわすから大丈夫」
折原さん。
見ると、折原さんがウィンクして見せた。
「そ、そうですね」
「折原さん」
うわっ。は、話し掛けられちゃった、折原さん。
「おはようございます。何でしょう?」
しかし、折原さんは全く動じず、挨拶をしている。
「此処のお席、まだ空きません?」
「空きません。生憎、ちょうど今、食べ始めたばっかりなものですから。ごめんなさーい」
「それでしたら、もう終わりましたから、此処どうぞ」
高橋さんと中原さんが席を立ち、譲ろうとしていた。
「と、とんでもないですわ。高橋さん。どうぞ、まだゆっくりなさってて下さい。私達は、なるべく傍の席を見つけて座りますから」
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