新そよ風に乗って 〜時の扉〜
そんな凄い会議に、私は出てしまってるの? 出ているというか、出席しているだけだけれど……。
「お手元にお配りしました内容で議事進行させて頂きますが、まず、社長から2010年度の収益につきまして、総評をお願い致します」
凄い。社長のお話を間近で聞けるなんて、何だか感動してしまう。
内容はわからないことばかりで、社長、副社長の話を聞きいていた。その後、各所属からの議題に入った。
「では、続きまして、今期予算につきまして経理部長からお願いします」
「はい。では……。先日、各所属にお配りしました2010年度3月期決算報告書をご覧になって頂いたと思います。その数字でおわかりかと存じますが、今期は大変厳しい予算になりますこと、ご了承願いたいと思います。割り振りにつきましては、お手元に……」
「何だ、この予算の割り振りは」
な、何? 
突然、誰かが経理部長の話の途中なのに口を挟んだ。
「何で海外は、こんなに予算が削られなきゃいけないんだ。北米ライン等、今期は円高で絶好調になるはずだ」
「それはですね……」
「円高なんだから、もっと事業を拡大出来るチャンスでもあるのに、こんな金額じゃ話にならんじゃないか」
何だか、不穏な空気が漂い始めている。
すると、経理部長が隣に座っていた高橋さんに、一言、二言、話し掛けた。
「その件に関しましては、会計士の高橋の方からご説明させて頂きます」
エッ……。
経理部長が予算の割り振りについて説明し始めたばかりなのに、何故、高橋さんに代わってしまうんだろう。何か変だなと、わからないなりにも感じてしまう。
「では、その件に関しまして、ご説明させて頂きます」
高橋さん。
落ち着いた高橋さんの声に安堵しながら、この会議で一番集中して耳を傾けた。
「我が社の財政は、現在円高とはいえ、見込みで上方修正出来るほどの余裕も余力もございません。円高はむしろ、かなりの不安材料とみなしております」
「不安材料だというのか?」
不安材料?
「はい。アメリカ経済の先行きが、円高によって不透明です。日本経済も今、先行き不透明で不測の事態を迎えております。個人消費の低迷、高水準による欧州の信用不安。それに関連して輸出企業だけでなく、輸出業そのものの回復が見られないと消費力は回復しないと思われます。企業収益の悪化が個人消費の低迷を生み、デフレを進行させる恐れがあります。国内需要に依存する内需型企業も含め、広がっている欧州経済が先行き不安や懸念されているのは、近年、欧州国の財政危機を端緒としたものです」
「じゃあ、欧州、北米ラインは駄目だということか?」
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