新そよ風に乗って 〜時の扉〜
エッ……。
「そんなにまで握りしめて、よっぽど欲しかったのか?」
「そ、そんなことないです。そんなんじゃ、ありません。私……」
ハンカチフェチなんかじゃない。ただ、あまりにも後先考えない自分の行動や言動に、自分自身で呆れてしまい、自己嫌悪に陥っていたから。だから夜空を見上げながら、ギュッとハンカチを握りしめていたんだと思う。
止めどなく溢れてくる涙が履いているチャコールグレーのパンツの上に落ちて、そこだけ濃くなっていく。持っていた高橋さんのハンカチは、どうしても使いたくなかった。否、使えなかった。
「私……」
「……」
無言の高橋さんだったが、きっとこちらを見ているのだろう。視線を感じる。
「物事の後先考えずに……行動したり言ってしまったり……いつも後悔して……。あの時、言わなければ良かった……何で……聞いたりしたんだろう。聞かなければ良かったと思うことばかいで……」
涙で声が籠もってしまい、上手く話せない。
「……」
「高橋さん。ごめんなさい……私……変なことばかり……聞いてしまって」
緩めていた左手にまた力を込めて、ギュッとハンカチを握りしめていた。
「俺も、似たようなものだ」
エッ……。
高橋さんが、私と似たようなもの? まさか。そんなこと、あるはずがない。
「嘘ですよ……」
喉が締め付けられているようで、そう言うのが精一杯だった。
「後悔しない人間なんていないはず。もし居たら、是非、お目に掛かりたいもんだ」
高橋さん。
「言わずに後悔するより、言って後悔した方が良くないか? よく言うだろう。何事も伝えないまま終わるより、結果はどうあれ伝えて終わりにした方がいい。言い方を変えれば、聞くは一時の恥。聞かぬは一生の恥と言うだろう? それと同じで、恥をかいてもそれは一時の事。恥ずかしさのあまり聞けずに先送りにしてしまえば、ずっと知らないまま終わるか、いざという時に知らずに恥をかく。どちらがいいか……。俺は、言って後悔した方が人間らしくていいと思うんだが。それと同時に、もし間違っていたら謝る。それは万人に対して、年齢に関係なく頭を下げるということが大事だ。誤った時は、自分の非を認めないと成り立たないのが対人関係では一番重要で、他人の思いに添うことは簡単でも、大なり小なり自分の見解が誤ったものだとわかった時、非を認めるのは、なかなか恥ずかしいものだったりする。表彰状と感謝状ってあるだろう?」
「あの賞状の事ですか?」
< 86 / 210 >

この作品をシェア

pagetop