いざ、バレンタイン-朧咲夜・番外編-【完】
いざ、バレンタイン

咲桜と流夜は、咲桜が高校を卒業したあとの五月に結婚した。

一緒にいられない関係かもしれなかったり、離れなければならなかったりと、紆余曲折がありすぎたが、やっと再会できて、生涯をともにする誓いを立てた。

過去に二度、直接渡せなかったバレンタインチョコ。

最初の年は本気でバレンタインどころじゃなかったから、人づてに渡したのはその次の年と次の次の年。

卒業したすぐあとにやってきたホワイトデーで、三年分の手渡しをしたけど、結婚してはじめてのバレンタインが、ちゃんと流夜に手渡し出来るチャンスだ。

……が、流夜の仕事柄帰って来られない日もある。

そのときはそのときだ。何日遅れようが、渡すと決めている。

咲桜は流夜の職場への出入りを許可されているが、流夜が帰って来られないような事態のときは、守衛に流夜を含めた職員のお弁当を作って差し入れする以外のことは出来ない。

へたに中には入れないし、逢えないのが流夜の仕事だ。

(そういえば……)

咲桜が休みで流夜は出勤の日の昼、ダイニングテーブルでチョコレートお菓子のレシピ本を広げて何を作ろうか考えていた咲桜の頭に、ふとよぎったものがある。

(私が生徒で流夜くんが先生だったからなかったけど、バレンタインに告白する子っていたよね……)

流夜と見合いさせられる前の学生時代の咲桜は恋愛ごとにまるで興味がなかったので、バレンタインは友チョコの日だった。

学校が浮ついていたのを親友の笑満と横目に、盛り上がってるね~、楽しそうだね~、と眺めていただけだ。

(うーん……一度思いつくと憧れちゃうな……バレンタインに告白するの。あ、手紙でも添えてみようかな? 愛してる! って)

バレンタインに告白するということはまだ付き合っていないのだろうから、その手紙としていささか重症だが、咲桜と流夜は結婚しているので内容に問題はない、と咲桜は頭の中で片付けた。

(うん、改めてすきを伝えるにはいいよね。うわあ、楽しみ増してきた!)

笑満にならってお菓子を作るようになって慣れて来た咲桜は、レシピを見ながら作ればまっとうなものが出来るようになっていた。

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