公爵閣下、あなたが亡妻を愛し続けるので後妻の私を愛せないというならお好きなようになさったらいいですわ。ただし、言行不一致で私を溺愛するなんてことは勘弁して下さいね
「さあっ、どうぞ」

 イーサンは童顔にいたずらっぽい笑みを浮かべ、わたしをじょじょに馬車の方へと追い詰め始めた。

「ちょちょちょ、ちょっと待って。だって、わたしは街の図書館に行くのよ。公爵閣下は、王宮の朝食会に出席なさるのよね?」

 そうだわ。公爵はきっと、わたしが王宮の図書館に行くと勘違いしているのよ。

 そう思いついた。それだったら、わたしたちの行くところは同じである。

「待たせたな」

 そのとき、背に公爵のハスキーボイスがあたった。

「ちょうどミユ様もいらっしゃったところです。閣下、馬車の準備は整っております」
「ありがとう。さぁミユ、行こう」
「こ、公爵閣下?」

 戸惑うわたしなどお構いなしに、彼はわたしの右手をとって馬車へとエスコートし始めた。

 その手は、大きくて分厚い。なにより、すごくあたたかい。

 手を取られた瞬間、電気のようなものが走った。
< 117 / 356 >

この作品をシェア

pagetop