公爵閣下、あなたが亡妻を愛し続けるので後妻の私を愛せないというならお好きなようになさったらいいですわ。ただし、言行不一致で私を溺愛するなんてことは勘弁して下さいね
「奴は、しばらく姿を消していたようだ。だが、最近また『三日月亭』や『飛び魚バー』に顔を出すようになったらしい」

 どちらの酒場も西街区のもっとも危ない地域にある。

 まともな商売人の行くところではない。

「ところで、おまえの姉さんだが、その、堕胎手術で亡くなったと言ったよな?」
「ええ、ボス。なんでもエルガー帝国の闇医者に手術してもらい、その後の経過がよくなかったらしいの」
「そのことは、だれからきいた?」
「エルガー帝国の帝都警察を名乗る黒ずくめの連中よ。姉の遺体を運んで来てくれたの」
「実家に? ギャラガー男爵家に?」
「ええ、おかしな話だけど。でも、そのお蔭でウインズレット公爵に詮索されずにすんだからよかったわ。両親が一夜かけてもっともらしい筋書きを作り、公爵に説明したみたい。公爵がそれを信じているかどうかはわからないけれど。だけど、いまだに姉を愛しすぎていてその死をまだ受け入れられていないから、両親の作り話を信じているのでしょうね」
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