公爵閣下、あなたが亡妻を愛し続けるので後妻の私を愛せないというならお好きなようになさったらいいですわ。ただし、言行不一致で私を溺愛するなんてことは勘弁して下さいね
 乗馬を楽しんで終わると、すっかり暗くなっていた。

 王都へと帰途についた。駐屯地に来たときと同じように、豪華な馬車で公爵と向かい合わせで座っている。

 窓外は、いまはもう暗闇しか広がっていない。

 草原や山や町や村や人間(ひと)や家畜たちは、まったく見ることが出来ない。

 イーサンが馭すウインズレット公爵家の豪華な馬車は、かぎりなく静かに走っている。
 振動が心地よすぎる。

 そして、馬車内の空気や雰囲気も。

 行きは不安や緊張でどうにかなりそうだった。だけど、いまは穏やかで静かなこの空間にすっかり身を委ねていられる。

 公爵との間に会話はない。

 行きならば、その沈黙がいたたまれないところだった。だけど、いまはこの沈黙もまた心地いい。

 満足感が心身を満たす。

 このままいまのこのときが続けばいいのに。

 そんな他愛のないことを、ついつい願ってしまう。

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