公爵閣下、あなたが亡妻を愛し続けるので後妻の私を愛せないというならお好きなようになさったらいいですわ。ただし、言行不一致で私を溺愛するなんてことは勘弁して下さいね
 そうして顔の火照りがとれると、またこの心地いいひとときを彼と享受する。

 公爵は、いまのこのひとときをどう感じているのだろう。どう思っているのだろう。

 ハッとわれに返った。

 ずっと彼のことを考えてしまっている。そのことに気がついたから。

 ダメダメ。彼がわたしにやさしくしてくれるのは、ほんの気まぐれに違いない。結局、彼が心から想っているのは、ただ一人なのである。

 それは、亡くなった姉なのだ。

 よくよく考えたら、ずるいわよね。だって、死者は生者より美化される。色あせることはあっても、そのイメージが極端に悪くなったりはしない。公爵に植え付けられている姉のイメージは、美しくてやさしくて気遣いのある最高のレディ。一生、彼はそのままのイメージに支配される。

 その姉のイメージにわたしが勝てるわけがない。
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