公爵閣下、あなたが亡妻を愛し続けるので後妻の私を愛せないというならお好きなようになさったらいいですわ。ただし、言行不一致で私を溺愛するなんてことは勘弁して下さいね
 さて、と。そろそろ西街区から出てもいいわね。

 そうだ。南街区に戻る前に、北街区にある王立公園に行ってみようかしら。

 その方が無難よね。

 というわけで、足を北街区へと向けた。

 北街区へ方向をかえてしばらく歩いていると、うなじの辺りがザワザワしてきた。

 これは、「何でも屋」時代に何度も体験した、いうなれば前兆。嫌なことが起こるであろう合図である。

 その瞬間、はっきりと感じた。

 尾行されている、と。いいえ。尾行ではないわね。何者かが、はっきりそうとわかるほど堂々とついてきている。

 しかも複数人いる。

 もしかして、ずっと前からついてきているの? 
 こういうことってほんとうに久しぶりだから、勘が鈍っているのかしら。

 はやい話が、まったく気がついていなかったわ。

 情けないかぎりね。

 まっすぐウインスタッド公爵邸に戻らなくって、ほんとうによかった。

 それにしても、いったいだれがついてきているのかしら?

 ダメダメ。呑気に推察している場合ではないわ。

 とにかく、うしろの連中をどうにかしなければ。
< 193 / 356 >

この作品をシェア

pagetop