公爵閣下、あなたが亡妻を愛し続けるので後妻の私を愛せないというならお好きなようになさったらいいですわ。ただし、言行不一致で私を溺愛するなんてことは勘弁して下さいね
「噂をきいているのだな。おれは、人付き合いが苦手でな。軍人以外の人、という意味だ。だから、そういう交友関係的なことは、すべてイーサンに任せている。おれは、彼の指示に従っているんだ。この銀仮面もそうだ。着用しろというから着用している。その上で、彼が噂を流したのだ。それが尾ひれ腹びれ背びれをつけまくり、いまやおれは魔王のごとき存在になっているわけだ。御託はともかく、きみがこれを嫌っているのなら、二度と装着しない。当然、いますぐ外すことはやぶさかではない」

 意外にもあっさり了承してくれた。

 黙っていると、彼は両手を銀仮面に添え、ゆっくりとそれをはずした。

「……」

 言葉もなく見守っている中、彼の素顔が早朝の冷たく鋭い空気にさらされた。

 それを目の当たりにしてからも言葉が出ない。まったく出そうにない。

 やっと唇を動かせたのは、しばらく経ってからだった。
< 256 / 356 >

この作品をシェア

pagetop