公爵閣下、あなたが亡妻を愛し続けるので後妻の私を愛せないというならお好きなようになさったらいいですわ。ただし、言行不一致で私を溺愛するなんてことは勘弁して下さいね
 亡くなった姉は、このファース王国でも「美姫」と名高い美貌の持ち主だった。容姿だけではない。性格もよかった。高潔でやさしくて気遣い抜群で前向きで明るくて。およそ長所しか持ち合わせてはいなかった。

 そんな姉にとって、ギャラガー男爵家に生まれたのが唯一の不幸だった。

 父と母は、控えめにいっても借金まみれである。

 ギャラガー男爵家は、その昔は宮廷官吏だったらしい。何代も宮仕えした名家のひとつだったとか。だけど、それも代を経るごとに家名の維持が難しくなった。その頃から、事業を営むようになった。別宅や土地を売り払い、様々な事業に手をだしては失敗した。

 そして、下級貴族によくあるように、どんどん落ちていった。

 父自身は、自分が男爵の地位を継いでも「どうにかしよう」という気力は持っていなかった。それどころか、生きる気力さえなかった。だから、お酒に溺れた。お酒の力でかろうじて生をつないだ。

 そんな父が貴族の集まるサロンに行けるわけがない。彼の居場所は、街の酒場だった。そこで日がな一日飲み耽った。
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