さよなら、真夏のメランコリー
「泣かないでよ……。私まで泣きそうになるじゃん」

「泣いてないし! 超元気だし!」


空元気が丸わかりなのに、真菜はコーラを一気飲みして立ち上がった。


「歌う! めちゃくちゃ歌う! それで、嫌なことは忘れよう!」

「うん」


どれだけ歌っても、昨日のことは忘れられない。
私を苦しめている理由が解決しない限り、心は癒されないとわかっている。


それでも、私は真菜に心配かけないように笑顔を見せる。
マイクを持った彼女とふたりで、うそくさいくらいに騒いだ。


無理にでもはしゃげば、笑顔だって繕える。
賑やかに過ごしている間だけは、つらい現実を忘れさせてくれた。


だけど、真菜と別れたあとの帰り道は妙に心細くなった。
雨が降り出しそうな空のせいか、空気には湿っぽい匂いが混じっている。


梅雨と初夏の香りがない交ぜになった、十八時半。
周囲の喧騒に紛れて、訪れてほしくない夏の足音が聞こえてくる気がした。

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