さよなら、真夏のメランコリー
私の家の最寄り駅にある図書館には、自習スペースがある。
利用者が多い時間帯は長時間の使用は禁じられているけれど、基本的には二時間くらいなら使えるため、真菜ともたまに利用していた。


「図書館って、ほとんど来たことなかったな」

「私は中学の時からたまに使ってたよ」


お金がない学生にとって、図書館はオアシスみたいなものだ。
無料で長時間居座れて、机と椅子があり、冷暖房も完備されている。


自習スペースは程よく話し声も聞こえるから、無言でいる必要もない。
それでいてずっと話していると周囲から注目されるため、ついおしゃべりに高じてしまうことへの抑止力もあった。


「わからなかったら訊いてくれていいよ」

「いいの?」

「俺がわかるかは知らないけど」

「それ、意味ないじゃん」


冗談めかしたやり取りで、どちらともなく小さく噴き出す。


輝先輩といると、変な気を遣うことも居心地が悪くなることもない。
それはきっと、彼とは一番つらい部分をわかり合えているから。


輝先輩にはやり場のなかった気持ちを話せただけあって、今さら触れられたくないようなこともあまりない。
たぶん、彼もそうだと思う。


そんなことを話したわけじゃないけれど、なんとなくそう感じていた。


「そういえば、輝先輩って志望校とか決まってるの?」

「いや、まだ。走ってた時は、陸上で大学に行くつもりだったし」

「そっか……」

「正直、推薦をもらえるだろうって気持ちもあったし」

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