どんな君も、全部好きだから。

他には何もいらない(Side 賢斗)

迂闊だった。

完全に無意識だった。

球技大会中、隣のコートから優依のところにボールが向かってきた。

それもバレー部男子が打った、かなりのスピードのボール。

転んだ優依を見て、俺は思わずみんなの前で『優依』と呼んでしまった。

そのことに気づいたのは、保健室で優依の手を冷やしているときだった。

下の名前で呼んでしまったことにも気づかないくらい余裕がなかった。


そして、これから先起こるであろう出来事を想像すると後悔の気持ちは増すばかりだった。



「賢斗くん!早坂さんとどういう関係なの?!」

「まっ、まさか付き合ってるとか・・・」

「うそー!信じらんないっ」


優依の早退を見送ってから教室に戻るともう昼休みだった。

クラスの女子だけでなくあの時体育館にいたであろう違うクラスの女子も俺を待ち構えていて、教室に入るなり俺に群がってくる。


「・・・付き合ってないけど」


俺はあからさまにめんどくさそうな顔で答えた。

こういう反応は想定してたけど、実際目の当たりにすると煩わしくて仕方がない。
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