綾織り

偶然の出会い

私の生い立ちを話せば、可哀想にという人もいるだろう。

でも私は、自分を不幸だと思った事はない。


「嘆かわしい。」

私が旅立つ日に、母はそう言って顔をしかめた。

「武家の娘が、女郎になるだなんて。」

そう言われても、私の心が痛まないのは何故だろう。

正直、武家の誇りと言うのにも飽きた。

それでは食べていけないのを、私は知っている。

「母上、今までお世話になりました。」

母の前に三つ指をついて、お別れの挨拶をした。

女郎になれば、おいそれとはこの家に戻っては来れないだろう。

「その言葉は、嫁入りの時に聞くものだと思っていましたよ。」

そう言った母の顔に、笑顔はなかった。

無表情なのは、私も一緒だ。


「そろそろ行くか。」

仲介役の男が、私に声を掛けた。

そもそも、女郎にならないか、なれば母の元にお金も入るし、生活に困らないと言ったのは、この男だ。

そして、私が女郎になれば、この男にもお金が入るのだろう。

「はい。」

私は立ち上がると、ちらっと母を見た。

お別れの時だと言うのに、母は私の方を向いてくれない。

「母上、お元気で。」