カラフル
 小一時間程して戻ってきたたー子は、窓際に近付き、窓を開けるのかと思えば、いきなりカーテンを外し始めた。

「なにすんだよ!」
 あっという間に外し終えると、たー子は袋から取り出したそれを俺に見せた。
「これに変えるの」
「はぁ? おいおい、ちょっと待て! 勝手になにしてくれんだよ!」
 たー子は全く聞いていない。

「ほら、いいじゃん!」
「いや、ヤバイだろ!」

 たー子は俺の部屋のカーテンを桜色に変えた。

「これで元気になるから!」
 たー子は笑顔でそう言うと満足げに帰っていった。

 黒を基調としたモノトーンインテリアで、シックな大人の男部屋に仕上げたのに……台無しじゃねぇか。


 だが、慣れというのは怖いもので、一週間もするとそれが全く気にならなくなっていた。それどころか、モノトーンの差し色で丁度いいか、なんて思い始める自分がいた。
 仕事から帰って優しい桜色を目にすると、なんとなく癒されるような気さえしていた。

 たー子に感謝……かもしれない。



 そうこうしている間に桜の季節は過ぎ、新緑の季節を迎えた。

 久しぶりに会社で見かけたたー子に声を掛けた。

「たー子! 久しぶりだな」
「あ、井上ぇ、久しぶり~」
 たー子はいつもの屈託のない笑顔を見せた。
「あれからどう? 少しは元気になった?」
「あぁ、まぁ……」
 曖昧に答えた俺の顔を、たー子が覗き込む。
「まだ吹っ切れてないんだぁ」
 たー子が困ったような顔で言った。

 その通りだ。
 情けない男と思われたって別に構わない。俺は彼女にゾッコンになるタイプだ。心にポッカリ開いた穴は、そう簡単には塞がらない。
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