恋をしたのはお坊様
「ほら、そんな顔しないで」
少し顔を近づけて笑いかける隆寛さん。

「隆寛さんはなんでそんなに優しいんですか?」
「え?」
驚いた様に隆寛さんが私を見ている。

「だっていつもニコニコしていて、怒った顔も嫌そうな顔も見たことがないから」

私だって隆寛さんのように穏やかに生きたいと思っている。
わざわざ人を恨むつもりは無いし、自分から意地悪する気もない。それでも世の中には腹立たしいことが多すぎるから。

「晴日さんは今ここに生きていること自体がとても恵まれたことなんだと思ったことはある?」
「それは・・・」

もちろん頭では理解している。
世の中には病気で辛い闘病生活を送る人や、食べ物がなくて苦しんでいる人が大勢いて、今この平和な日本に生きる自分は幸せなのだと思う。
でも・・・

「僕も僧侶だから、お釈迦様や偉人の言葉を引用して話しをすることはできるんだが、今はもう少し身近な話をさせてもらうね」

持っていたグラスに残るビールをグビグビと空けてから、隆寛さんは私の方に体を向けた。
つられるように、私も姿勢を正す。
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