恋をしたのはお坊様
男性に抱えられ、その後車に乗せられ、やって来たのは大きなお家。
純日本家屋で、決して新しくはないけれど風格のあるたたずまい。
それに、ここは何度か来たことのある場所。

「どうですか、落ち着きましたか?」
入ってきた男性が私の隣に座り、心配そうな顔をする。

「はい、もう大丈夫です。お世話になりました」

体が温まったことにホッとして眠ってしまったらしく、気が付けば外は薄暗くなっていた。

「それは良かった。低体温とごく軽い凍傷があるようですから、もう少しゆっくりしていてください」
男性が温かいお茶を差し出した。

ここに連れてこられるとすぐにお医者さんらしき人が現れて、診察を受けた記憶がある。
どうやら男性が呼んでくれたらしい。

「何から何まですみません。私は大丈夫ですので、これで失礼します」

もちろんこれだけお世話になったからにはちゃんとお礼だってしないといけないけれど、これ以上ここにいてご迷惑をかけることはできない。
そんな思いもあり、私は布団を出ようとした。

「ダメですよ。先生からも無理をしないようにと言われていますから、もうしばらく休んでください」
「ですが・・・」
たまたま出会った通りすがりの私のためにそこまでしてもらう理由がない。

「いいんです。困った方を助けるのも、私の仕事の一つですから」
「はあ」

そう言われてしまえば 何も言えない。
だって目の前にいる男性は、お坊様なんですもの。
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