恋をしたのはお坊様
「さあどうぞ」
「ありがとうございます」

差し出されたご飯とお味噌汁。
どこかのレストランかってくらい大きなダイニングテーブルの上にはたくさんの料理も並んでいる。

まず席に着いたのは、隆寛さん。
そして、このお寺の奥様である隆寛さんのお母様と隆寛と同じく頭を丸めた初老の男性。この方がお父様で、お寺のご住職。
それからもう一人、食事の用意ができてからお母様に連れられ車いすで入って来た年配の女性が隆寛さんのおばあ様。この家は4人家族だと教えられた。

「ごちそうはないけれど、たくさん食べてちょうだいね」
「はい、ありがとうございます」

みんなで食卓を囲み、夕食が始まった。

「そう言えば、あなたは愛子ちゃんによく似ているわね」
「え?」

車いすのおばあさまに言われ、私の箸が止まった。
愛子は亡くなった祖母の名前。ってことは・・・

「高山のおばあさんとうちの母は幼馴染だったの。私も主人もあなたのお母さんと小さい頃何度も遊んだのよ」
不思議そうな顔をしていた私にお母様が教えてくださった。

「そうだったんですね」

祖母に似ているなんて言われたことは初めてだけれど、なんだかうれしいな。

「私も母も懐かしい顔が見れて喜んでいるのよ。だから体が治るまでゆっくりしていらっしゃい」
「でも・・・」
それじゃああんまり申し訳ない。

裏山で道に迷ったのも、突然の雪で動けなくなり遭難しかけたのも、すべて私の不注意。
迷惑をかけたことを叱られることはあっても、こんなに歓迎される理由がない。

「無理強いはできませんが、僕からもお願いします。おばあさまと祖母は仲が良かったらしいから、あなたがいらして祖母がすごく喜んでいるんです。しばらくここに滞在していただけませんか?」

もし東京で同じことを言われたら、まずは怪しんでしまうだろう。
都会育ちの私は、あまり他人に近づかないようにと生きてきた。
ある程度の距離を保つことでトラブルを避け、いい関係を築いてきたと思っている。
でも、ここの人たちはまるで違う。

「幸いうちには宿坊として使っている部屋が余っているし・・・ダメですか?」
優しい表情で私を見る隆寛さん。

宿坊はお寺が営む民宿のような施設。
さすがにこの時期はお客さんもいないようだけれど、光福寺も広い土地と建物を利用して一般向けの宿坊を営んでいるらしい。

「わかりました・・・お世話になります」

結局断れなくて、私はしばらくここでお世話になることにした。
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