サイコな機長の偏愛生活

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仕事のキリをつけて時間を確認すると十八時少し前。
今日こそは、彩葉とゆっくり過ごすぞ!と意気込む財前は、彩葉からのメールに気付く。

『郁さん、ごめんなさい。急変した患者の緊急オペに行って来ます』
『状態があまりよくないので、少し時間がかかるかも…』
『せっせかくの休みだったのに……』
『夕食、途中まで作ってあります。ホントいつも中途半端でごめんなさい』
『終わり次第、連絡入れますね』
『……郁さんの声が聞きたい』

長文でなく、呟くように綴られたメッセージ。
彼女らしい言葉で、絵文字すらない所を見ると、余裕が無いのが窺える。

早めに仕事を切り上げて、彼女と密な時間を過ごそうと思ったのに。

「本部長?……どうされました?十八時になりますよ?」

秘書の酒井が顔色を窺う。
彩葉が休みなことを伝えてあって、今日は十八時に退社すると伝えておいたからだ。

「オペが入ったらしい」
「えっ…」
「もう少し仕事してから帰るから、明日の午前中は半休にしてくれ」
「……承知しました」

ターミナル内の巡回を終え、自室へと戻ることにした。



二十二時過ぎ。
自宅玄関のドアを開けると、そこに彼女の靴は無かった。
勿論、室内の照明は落とされている。

一人暮らしの時と何ら変わらない光景なのに、いるべき人がいるのといないのとでは雲泥の差がある。

お互いに多忙な仕事を抱え、不規則な勤務体制な上、責任のある立場。
一週間会話することなく過ごすこともざらで、会話しても半分は寝言のような……。
そんな生活を既に三か月以上続けている。

逢えない不安に苛々も募るが、けれど、確信していることがある。
この場所(いえ)にいれば、どんなにすれ違ったとしても、いつかは逢えるということを。

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