サイコな機長の偏愛生活



「柏……崎さん?」
「っ?!ほ、本部長っ…」

羽田空港第二ターミナルの二階にある出発ロビーの搭乗口 五十二番のカウンター前。
五十二番ゲートは中央にある保安検査場を抜けて、左手に歩いて五分ほど。
ターミナルのほぼ左端に位置していて、結構な距離がある。

そんなゲート前に姿を現したのは、国内最大手の全日本スカイジェット航空(略:ASJ) 戦略企画部 本部長の財前 (かおる)(三十五歳)だ。
財前家が経営するASJの御曹司でもある。

財前に名前を呼ばれた柏崎 あかりは、財前の姿を視界に捉え、一瞬で硬直した。
いや、石化したと言ってもいいほど、完全に固まっている。

三つ揃えの高級スーツをパリッと着こなし、艶々に磨かれた高級紳士靴を履きこなす。
身長百八十六センチの長身にスタイリッシュに纏められた髪。
スッと通った鼻梁に色気のある薄い唇。
そして、仕事オンモードでは容赦なく射抜き倒す威力を放つ鋭い眼。
デキる男の代名詞とも言えるその容姿は、スタッフは勿論のこと、乗客の視線をも掻き集めて。
トータルで見たら完璧のイケメンなのだが、唯一欠点とも思えるものがある。
それは……。

「代わりますので、今から五分間の休憩を」
「はい?」
「………休・憩・を」
「あ、……はいっ!!」

財前の氷視が突き刺さる。
柏崎は、財前の視線が向けられた先に目線を落とし、ハッと息を呑んだ。
破れかかっているストッキングを捉えたからだ。

「前のお客様との間隔をお取り頂き、ゆっくりと機内へとお進み下さい」

柏崎と交代した財前は、至極優しい声音で搭乗予定の乗客に声を掛け、丁寧に誘導する。

「あの、すみません」
「はい、御伺い致します」

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