弱小流派の陰陽姫【完】

物陰にしゃがみこむ月音の頭の上から愉快そうな声がした。

月音は白桜たちを見たまま返す。

「ストーキングじゃないです。白桜様と百合緋様を物陰から応援してるだけですっ」

「それを世間ではストーキングっていうんだよ」

呆れ気味に言われて、月音はむすっとした顔を振り仰いだ。

「小田切くんの世間が狭いだけだよ。私の世間ではこれは応援! お慕いしまくる御方を物陰から応援するのは当然のことだよ!」

「いやそれ呆れるほどストーカーの言い訳なんだけど。んで? 今日も白桜サマを見てるだけなの?」

物陰にしゃがみこんでいた月音に視線を合わせるように膝を折ったのは、月音のクラスメイトの小田切煌(おだぎり きら)。

明るく友達の多い好青年だ。

古い家柄の多い斎陵学園の中では珍しく、一般的な家庭の出身。

「もちろん。白桜様をお慕いしてるって言っても、一番は御門(みかど)流のご当主だからだし」

「あー、家の関係ね。っつーか月御門の家と月音ちゃんの家が陰陽師とか、ふつーにびっくりしたわ」

月音の家は陰陽師としては弱小流派で、神崎流当主の父もいわば兼業陰陽師。

一般の会社員としても務めている。

大家(たいか)の月御門家のように依頼が舞い込んでくるような家でもなく、取り立てて話すことでもないから、月音は友人にも、自身が陰陽師の血筋であることを話したことはない。

そんな状態なのになぜ煌が知っているかというと、煌はいわば霊媒体質のようで、月音が下校している途中にたまたま、煌が事故で亡くなった霊と話し込んでいてうっかり連れていかれそうになるのを助けたのがきっかけだ。

白桜が陰陽師であり御門流の当主ということは、知っている人は知っているという公の秘密状態で、月音は知っていて煌は知らなかった。

「あのカンペキ月御門が超有名な陰陽師だったとはね」

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