③わたしの執事はときどき俺様
しばらくして、キッチンからハンバーグがジュージューと焼ける音がしてきた。
デミグラスソースの香りが、ふわりと鼻を掠める。
「ほら、できたぞ」
「うわぁ、美味しそう」
ダイニングテーブルに出来たてのハンバーグがのったお皿が置かれ、わたしは思わず感嘆の声をあげる。
今日の夕食は、フランスパンとサラダ、ハンバーグにかぼちゃのポタージュだ。
「ねぇ、俊くん。食べても良い?」
「良いですよ」
あれ?
いつもなら、『これからマナーの特訓するぞ』とか何とか言うのに。
それを言わないなんて。
「何か言いたそうな顔をしてるな」
「だって俊くん、いつもなら『姿勢を正して』とか言うから」
「……今日は特別だ」
「え?」
「だって菫様、指を怪我してるし。俺もそこまで鬼じゃない」
俊くん……。
「それじゃあ、いただきます」
わたしは手を合わせると、ハンバーグを口にする。
「うわ、美味しい」
このハンバーグ、デミグラスソースが濃厚で本当に美味しい。
「お嬢様って、本当に美味そうに食うよな」
「え?」
「菫様の幸せそうな顔、可愛くてずっと見てたいって思う」