✩.*˚again~かつて僕も人間に恋をしていた。
 はるか昔のヴァンパイア、つまり僕の先祖たちには『人間と恋をする』なんて感情はないか、微々たるものだったらしい。

 何故今、それが強いものとなり、存在しているのか。

 僕はこう考えている。
 正解か分からないけれど。

 ヴァンパイアの命は永遠だけれども、人間が開発した『ヴァンパイアの命を奪う薬』のせいで、僕たちは弱い立場となり、数もかなり少なくなったらしい。

 だから人間との子孫を残し、絶滅するのを防ぐためだとか、人間と恋することにより何か得られるものがあるのかもとか。

 本能的に僕たちが人間と恋をすることを求めるようになったのかもしれない。
 人間と恋をするメリットがあるのかもしれない。

 僕はもう400年くらい生きていて、一度だけ本気で人間に恋したことがある。
 あの子と恋をしたのは100年前。

 薬の話を聞いた時から人間に良い印象はなかったけれど。

 あの子のおかげで初めて誰かと関わることの喜びを知った。
 初めて人間に何かをしたいと思った。
 色んな初めての気持ちが心の底から溢れてきて、不思議な気持ちだった。

 あぁ、これが人間のいう『幸せ』というものなのか――。
 ただ彼女の隣にいるだけでよかった。

 相手も自分のことがずっと好きなんだと思っていた。

 ヴァンパイアは誰かひとり人間を選び、血を吸えば、生涯を共にする(つがい)となる。そして吸われた人間も僕たちと同じ永遠の命を得ることになる。

 やがてあの子とは、当たり前にそうなるのだと思っていた。

 けれど、ヴァンパイアな僕ではなく、最終的には人間を選び、永遠の命を得ずに人間の寿命を全うし、目の前から完全に消えた。

 裏切られた。
 苦しんだ。

 その時に誓った。
 もう絶対人間なんかに恋をしないと。
 そう、絶対に――。


 
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