すべてを奪われ忘れ去られた聖女は、二度目の召喚で一途な愛を取り戻す〜結婚を約束した恋人には婚約者がいるそうです〜


 しかしこの場にいる者は誰一人として、王女の言葉に耳を傾けない。エリックでさえ分が悪いと思っているのか、うつむき黙っていた。その様子にますます王女はあせり、抑えられている腕を振りほどこうと暴れ始める。


「やっぱりおかしいわ! この女が魔術で皆を魅了しているのです! お兄様、目を覚ましてください!」
「ケリー、二人を連れて行け。多少、手荒に扱っても良い。許可する」
「は!」


 ケリーさんが指示を出し、数人の騎士がアンジェラ王女とエリックを連れて行く。


「嫌よ! 絶対に嫌! わたくしはカイル以外とは、結婚しないわ!」


 最終的に暴れるアンジェラ王女を、騎士たちが引きずるように部屋から連れ出し、二人は去って行った。しかしようやく部屋に静けさが戻ったが、誰も話す様子はない。するとそんな気まずい状況でも気にせず声をあげたのは、やはり我が師匠のジャレドだった。


「アル! ちょうど良いタイミングで来たね! 僕もけっこう時間を引き伸ばしたんだけど、王女たちを捕まえに来てくれて良かったよ〜」


 師匠の明るい声に、部屋の空気が一気に和み始める。話しかけられたアルフレッド殿下も師匠の飄々とした態度を見てクスッと笑った。


「ケリーからアンジェラの愚行を聞いてあわてて教会に来たのだが、そのカイルが抱きしめている彼女がもしかして……」
「はい。彼女が王宮に侵入した罪で処刑されるところだった無実の女性です」
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