すべてを奪われ忘れ去られた聖女は、二度目の召喚で一途な愛を取り戻す〜結婚を約束した恋人には婚約者がいるそうです〜

 私を心配そうに呼ぶ、カイルの声。仰向けに寝転ぶように彼に抱きとめられているけど目眩が止まらない。それでもどうしても彼の顔が見たくて、私はそっと瞼を開けた。


(ああ、カイルだ。ようやくあなたと話せる……)


 屈強な体に強い精神をもった、この国一番の騎士であるカイルが泣いている。赤い目をして、私を支える大きな手は震えていた。


 なんとか力を振り絞り、彼の頬に手を伸ばす。つうっと零れ落ちたカイルの涙が、私の手のひらを湿らせていく。


「……カイル。ただいま」


 ずっと言いたかった言葉。そして言えなかった言葉だ。きっと今はまだカイルに実感はわかないだろうけど、それでもあなたの名前を呼んで「ただいま」と言いたかった。


(ああ、でもちょっと限界みたい。眠っちゃいそう……)


 やっと話せたのに、目の前の景色が再び歪み始めた。ゆらりゆらりと波打つカイルの顔が少しずつ見えなくなっていく。


「おかえり、サクラ」


 そう言ってぎゅっと抱きしめてくれるカイルの温かさに、私はホッと息を吐く。そして彼の腕の中で安心しきった私は、そっと意識を手放した。
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