すべてを奪われ忘れ去られた聖女は、二度目の召喚で一途な愛を取り戻す〜結婚を約束した恋人には婚約者がいるそうです〜


「言葉を話せないのか?」


 その瞬間、目の前の彼女がパアッと花が咲いたように笑った。俺が理解したのが嬉しかったのか、子供のようにコクコクとうなずいては、上目遣いでじっと見上げている。


 ――なんて愛おしいんだ。


(ダメだ。俺はもう彼女の魔術にかかっているのかもしれない。これはいけない。そうだ!)


「ケリー、魔力検査板を持ってこい」
「は!」


 すると目の前の彼女の視線が、部下のケリーに移った。しかもなんだか嬉しそうにあいつを見ている。その表情に胸の奥がチクリと痛んだ。


(本当におかしいぞ。なんで俺は彼女がケリーを見ているだけで、苛ついているんだ?)


 やはり最初に目が合った時に、何か術をかけたのだろう。俺は苛立ちを隠すように目に力を込め、ケリーが戻ってくるのを待った。


「持ってまいりました!」


 ケリーが持ってきた魔力検査板を早速差し出したが、彼女の手はぶるぶると震え、測定が失敗してしまう。必死にもう片方の手で震えを抑えようとしている姿に、気づくと俺は彼女の手に自分の手を重ねていた。
< 34 / 225 >

この作品をシェア

pagetop