すべてを奪われ忘れ去られた聖女は、二度目の召喚で一途な愛を取り戻す〜結婚を約束した恋人には婚約者がいるそうです〜

「君を助けたかった。ただ、それだけだ。これからは、俺が君を守る。だからもう、泣かなくていい」


 返事を聞いた彼女は無表情だ。しかし、みるみるうちに大きな瞳に涙がたまり、あふれ始める。止まらない涙をそっと指で拭うと、彼女はクシャリと顔を歪め声を出して泣き始めた。


「ああ、ああ……ううう……ゲホッゲホッ」
「そうか、泣くのも苦しいのか」


 かわいそうに。それなら昨夜は、どのくらいの痛みを伴って泣いたのだろう。いや痛くてもいいから、泣きたかったのか。そのくらい悲しく淋しい夜を過ごしたのだ。


 こんなか弱い体で。彼女が着ている服はもうドロドロだ。髪もボサボサで寝ていないのだろう。目の下のクマもクッキリと出ていた。


 ――彼女は俺が命をかけて守りたい


 もうそれが勝手に頭に響く声なのか、俺の本心なのかもわからない。


(それでも今は、これが正しいことだと思う)


 俺は声を出さないよう静かに泣く彼女を、いっそう強く抱き寄せた。
< 55 / 225 >

この作品をシェア

pagetop