鎖に繋がれた月姫は自分だけに跪く竜騎士団長に焦がれてやまない
 ヴェリエフェンディの王城からは、この前に訪れた時とは違う不安気な騒めきが伝わって来る。キースの複雑な立場は、オデットも何回も聞いていた。その彼がもしかしたら瀕死なのかもしれないと思えば、城の中がこうして騒がしくのも仕方のないことなのかもしれない。この国の勢力図が、塗り替えられてしまうかもしれないのだ。

「キース! 何をしている!」

 ある部屋に入った途端に、アイザックがいきなり大きな声を出した。彼のすぐ後ろから、やって来たオデットは身を竦ませて驚いた。

 慌てて大きな身体の向こう側を覗き込めば、キースが裸の上半身に包帯を巻いたままで上半身を起こしていたのだ。

「……よお。アイザックに、オデット。来てくれたのか。俺も一応は王族なんで、優先して治療師がそれなりに治癒の魔法を掛けてくれた。もう命の危険はないという事で、他の奴のところに行って貰っている……そんな顔をして、心配をしなくて良い」

 後の言葉は、自分に掛けてくれたのだと気がついたオデットは彼に駆け寄った。

「キース! ……良かった。私。今すぐに治療します」

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