だって、君は俺の妻だから~クールな御曹司は雇われ妻を生涯愛し抜く~
 時間が経つのが短いような長いような。昼過ぎにせめて水分だけでもと病院内に入っているコンビニを目指す。手術室前の厳粛でなんとなく殺伐とした雰囲気とは対照的に、多くの人が行ったり来たりしている。

 一度携帯のスマホの電源を入れてみる。特段連絡はない。大きく息を吐いて、店の中に足を踏み入れようとしたタイミングで、スマホが震えた。店に入るのを急いでやめて、少し離れた人が少なそうな場所に移動する。

「久弥さん?」

『瑠衣、お義母さんはどうだ?』

 電話の相手は久弥さんで、彼は開口一番に母の容体を気にした。

「予定通り、手術室に入っていきました。今のところなにも変わった様子はありません」
『そうか。瑠衣もちゃんと食べろよ。待つ方が体を壊したら洒落にならない』

「はい。ありがとうございます」

 彼の言い方には実感がこもっている。光子さんが倒れて手術を受けたとき、久弥さんもきっと気が気ではなかったはずだ。ましてや彼は先に祖父も亡くしている。

『今日は、極力早く帰るようにする。ちなみに食事の準備は必要ない』

 続けられたのは意外な申し出で、目をぱちくりさせた。そのあと、わざとおどけてみせる。

「久弥さんがつくってくれるんですか?」

『簡単なものでかまわないなら』

 冗談で言ったのに真面目に返され、驚きと嬉しさですぐに言葉が出てこない。

 久弥さん、料理するの? それとも私に気を使って?
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