まんまるお月様とおおかみさんの遠吠え①~人狼夫たちとのドタバタ溺愛結婚生活♥~

026 夢の中

 町に行くために電車に乗った。いつも通りに。

 座席の色はライムグリーン。少し黄ばんで薄汚れているのは、私が子どもの時から。この上に何人座ったかとか考えただけで潔癖症の人は死にたくなると思うけど、私は幸いにもそうじゃない。

 扉のすぐ近くの端のポールの近くに、寄って座る。最寄り駅は地下鉄だから、窓の外はいつも真っ暗なままだ。鞄の中からいつものように単行本を取り出す。

 表紙を捲ると、電車の中でページを捲る紙の音がかすかに聞こえる。

 ……何か変じゃない? 私は違和感に、ようやく気がついた。

 ガタンガタンという電車の音の他には、音がしない。

 この車輌に乗って居るのは私ともう一人。同じ方向を向いて座る向こうに居る人。死角に入っているせいか、ただぼんやりと影のように見える。

 確か駅で待っていた時はラッシュ時とは言えないけど、何人かの列が電車を待っていたはず。

 早朝や終電間近なら理解出来るけど、もしかしたら、乗る電車を間違えたのかもしれないし。線を間違ったのかもしれない。

 とにかく次の駅で降りよう。

 あれ? でもどうして、私は急に町に行くことになったの……。

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