契約彼氏とロボット彼女

小さな嘘




金の香りが颯斗の鼻の奥を通過した瞬間、一瞬ぐわんと立ちくらみがした。
あまりにも現実離れしている言動に、一瞬映画でも観ているような気分に。

しかし、札束一つで弄ばれてるような気にもなり、嫌気がさした。



「なんだそれ。その金と引き換えに弄ぶつもり? あんたは大金をポンっと出せるくらいの財力があるかもしれないけど、貧乏人を見下すのは間違ってるだろ」

「誤解しないでください。決して見下してる訳じゃありません」



颯斗は、沙耶香の冷静沈着な言動且つ無表情が故に感情が読み取れない。
だから、余計信用ができなかった。



「あんたがしてる事は立派な営業妨害だよ。しかも、いま俺には彼女がいるからあんたの為に時間は使えない」



俺は防御力を上げる為に小さな嘘をついた。
そうすれば、簡単に引き下がってくれると思ったから。

しかし、彼女は更にうわ手を行く。



「いいえ、彼女はいません。あなたに関しての情報は全てリサーチ済みです。それに、もし彼女がいたとしても金で解決しますからご心配なく」

「おいおい……。確かに彼女がいるという嘘はついたけど、もしそうだとしても金で解決するのはやめろ」



ブラックジョークだとしても笑えなかった。
何故なら手元の現金が全てを物語っているのだから。



なんだよ、こいつ……。
急に現れたと思ったら俺の時間はいくらで買えるだの、事前に情報をリサーチしてるだの、女がいたとしたら金で解決しようだのって。


しかも、気になるのは彼女だけじゃない。
後ろに並んでいる全身黒ずくめの男達は見るからにヤバそうだ。

実は暴力団の組長の娘とか……。
俺はヤバい子に目を付けられてしまったのかな。


いや、絶対に騙されない。
最初は控え目に近付いてきたとしても、きっと裏があるはず。



颯斗は次々と湧き出てくる嫌な妄想によってブルブルと身震いがした。

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