契約彼氏とロボット彼女

彼女のお願い




俺達は銭湯に到着すると、入り口入ってすぐの壁側に設置されている販売機でチケットを購入して受付で渡してから男女別に分かれて入浴した。



その後は約束の時間にロビーで待ち合わせ。

俺はTシャツ短パン姿でロビーの自販機前に立ってると、彼女は女湯から何故か出かけたままのブランド物のワンピース姿で出てきた。



「あれ? サヤちゃん着替えを持ってこなかったの?」

「“ちゃん”は要りません。サヤって呼んで下さい。じゃないと返事をしませんから」


「わかったわかった。……で、着替えは?」

「銭湯に浴衣が置いてあると思ったのですが……」


「あー、なるほどね。銭湯は旅館をイメージしてたのかな? 日帰りだから浴衣はないんだよ」

「知らなかったです」


「この三日間スーツ姿だけど、普段着は持ってないの?」

「えっ、普段着しか着てませんけど……?」


「……ないのね。じゃあ、コーヒー牛乳を飲んだ後に買いに行こうね」



残念ながら、お嬢様には一般人の普通が適用されない。



颯斗は背後の自動販売機のコーヒー牛乳を二つ購入して沙耶香に手渡した。



「入浴後に腰に手を当てながらコーヒー牛乳をぐびぐびって飲むと美味いんだよなぁ」

「へぇ。家の脱衣所には自動販売機がないので今度設置してもらわないと。そしたら毎日コーヒー牛乳が飲めますね」


「……」



彼女との価値観に差を感じて思わず言葉が詰まった。
残念ながらサヤの話は映画館のスクリーンの向こう側の世界ほど別次元だ。



銭湯から駅近辺の衣料品店でサヤの私服購入後、自宅へ戻って夕食準備に取り掛かる為に腰を上げた。


……でも、ふと思った。
さっき彼女から本物の彼女のように扱って欲しいと。


お嬢様は数多くの習い事をしているイメージがある。
きっとサヤも花嫁修業の一環として料理教室くらいは通っているだろう。
もしかしたら、家庭菜園で育てている野菜を駆使して美味いメシを作ってくれるかもしれない。

だから、期待を込めて聞いた。



「ねぇ、料理は出来る?」

「……はい、もちろんです。料理くらい作れます」



期待通りの返事が返ってきたので、彼女の自信にホッと胸を撫で下ろした。



「じゃあ、早速夕飯作りをお願いしてもいい? サヤの手料理を食べてみたいし」

「まっ、任せて下さい。……あのぅ、その代わり一つだけお願いが……」



彼女はそう言うと、先程と同じく指先同士をモソモソと擦り始めた。



「うん? 言ってごらん」

「1時間ほど散歩に出掛けてくれませんか」


「……えっ、どうして?」

「実は料理をしている姿を見られるのが恥ずかしいので……。それまで家に鍵をかけておきますね」



一瞬、頭の中は昔話の何とかの恩返しの話が思い浮かんだが、素直に従って散歩に出る事に。

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