契約彼氏とロボット彼女

小さなわがまま




今は菅が運転するリムジン車内で、フランス料理店に向かっている。

そこで待ち合わせしているのは、両親と婚約者の彼とその両親。
つまり、今日は結婚式直前のご挨拶程度の顔合わせの日。


私は本音に蓋をしてやってきた。
ただ、今の自分に出来る事と言えば……。



「菅、スピードを少し落として下さい」

「お嬢様、どうされましたか?」


「……いえ、気分的に。早くても遅くても到着する場所は同じですから」



小さなわがままを言う事くらいだ。


フランス料理店の出入り口の前で両親とバッタリ会い、一緒に予約している個室へと向かう。



「沙耶香。家を出てからもう二週間になるけど、そろそろ帰りたくなったんじゃないの?」

「……」



心配の目を向けてくる母親にすら反抗的な態度を取る私は親不孝者だ。

隣の父は一切無言のまま。
誓約書を突き付けて家を出て行ったあの日の事を未だに根に持っている。



家族三人揃って予約している個室に入ると、先に到着していた彼の両親が二人同時に席を立って一礼した。



「あぁ、これはどうもどうもっ。田所さん、本日はよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします。今日はお天気に恵まれましたね」


「えぇ、晴れ舞台にはちょうど良い日和で。ところで瞬くんは?」


「どうやら渋滞に巻き込まれてしまっているようでして……」

「じゃあ、我々は座って到着を待ちましょうか」


「お父様、私は化粧室に……」

「早く戻るんだぞ」



堅苦しくて重苦しい雰囲気に息が詰まった。

この場で結婚したくないと叫んでやりたいくらい、私の心は窮地に追い込まれている。

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