転生織姫の初恋

 彦星が姿を消して、半月が経った。
「織姫ー。最近ご無沙汰じゃん。今日遊ばね?」
「今日はパス」
「あっそ。じゃあまた気が向いたら遊ぼーぜ」
「うん……」
 織姫は机に突っ伏し、そのまま浅い眠りにつく。
「織姫? もう放課後だよー? ね、今日カラオケ行かない?」
 クラスメイトが声をかけてくる。
「んんー。眠い」
「眠いって、今まで寝てたじゃん」
「でも眠いの……」
「じゃあまた今度ね。お先ー」
「んーバイバイ」
 織姫は毎日をただぼんやりと過ごしていた。いつからか男遊びはやめ、女友達と遊びに行くこともしなくなった。
 入れ違うように人の気配が織姫の前にやってくる。顔を上げることすら面倒くさかった織姫は、気付かないふりをして目を閉じた。
 ――「……巡屋さん、ちょっといいかな」
 気配の主は、簗瀬だった。
 すっかり大人しくなった織姫に、見兼ねた梁瀬が声をかけてきたのだ。二人は生徒指導室に入ると、向かい合うように座る。
「……巡屋さん、最近元気ないんじゃない? 大丈夫?」
「べつに、先生には関係ありません」
 織姫は俯いたまま答える。
「友達ともあんまり話してないみたいだけど、どこか具合が悪い?」
「べつに」
 目を逸らしたままで、不満を態度に表すように足を組んだ。
「学校は楽しい?」
「べつに」
 いちいちどうでもいいことを聞いてくる梁瀬に苛立ちながら、答える声はどんどん大きくなっていく。
「……もしかして天月先生のこと、まだ好きなの?」
 不意に確信をついた問いを投げられ、織姫の瞳孔がカッと開いた。
「だから、先生には関係ないでしょ! そもそもあんたが天月先生を追い出したんじゃん! 今さらなんなの? 返してっていったら先生のこと連れて帰ってきてくれるわけ?」
「巡屋さん、だから天月先生は……」
「なにもできないくせに。もう放っておいて!」
 織姫は強く机を叩くと、部屋を飛び出した。
「あっ……巡屋さん!」

 
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