来る日も来る日もXをして

酷な再会

「妻のユカです。」

明日(あけひ)先輩の隣に立つショートカットの女性が社長と部長に挨拶している。左手薬指には指輪が光っていた。

結局あの日明日先輩と話すことは出来ないまま先輩はフィンランドに()ち、その数ヶ月後に私も東雲くんと共にハワイに発った。

慣れない外国、久しぶりの店舗での仕事、店舗を立ち上げチーフを務める毎日は何から何まで必死であっという間に過ぎていった。そんな中東雲(しののめ)くん───(しのぶ)くんと呼ぶようになった───は頼もしい相方となった。それ以上の特別な感情を持つことはなかったのに、彼は様々な国籍の女性達からのアプローチを『好きな人がいるから。』と全てきっぱりと断っていた。なんだか申し訳なくて彼に対して恋愛感情を持てないことを言っても『好きになってもらえるまで諦めません。』と言われるばかりだった。

仕事にがむしゃらな毎日で恋愛モードになる余裕がなかったのもあるが、心の中に明日先輩がいたことは否定できない。彼女がいるとわかっていても忘れることが出来なかった。そんな自分が嫌だった。

一年後の4月、会社の記念パーティーに参加する為帰国することになった私が最初に考えたのも明日先輩のことだった。けれどそこで見たのは夫婦となった先輩とあの女性(ひと)だった。

───『ユカ』・・・やっぱりあの女性が・・・。

明日先輩とのデートの日、親密に話す二人から逃げた私に先輩から送られてきた『ごめん(ゆか)』と誤変換されたメッセージ。それはやはり彼女宛だったのだ。想定してはいたことだったけれど・・・。

愕然としながらも二人から目を離せないでいると社長達と話している明日先輩と目が合ってしまい激しく動揺する。慌てて軽く会釈をして目を逸らした。
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