暴君CEOの溺愛は新米秘書の手に余る~花嫁候補のようですが、謹んでお断りします~
出会いは最悪
望愛(のあ)、本当にお弁当を持っていくの?」
階段の下から母さんの不安そうな声がする。

「持っていくわよ」
「今日は向こうで調達した方がいいんじゃないの?」
「えぇー、何で?」
母さんのお弁当が好きなのに。

「だってほら、ホテルならいくらでも美味しいものがあるでしょうし、社食だってあるって話よ」

新年度4月から私が働くことになった一条プリンスホテルは、日本を代表する財閥一条コンツェルン傘下の一流ホテル。
都内の一等地に立ち、各国の要人を迎えての国際会議なども行われる巨大な施設だ。

「大丈夫よ。仕事はどうせ裏方だろうから、休憩室ででも食べるわ」
「そお?」

一応大学を出ているとはいえ何の専門知識がある訳でもなく、取柄は元気と体力だけの私にはどう見ても不釣り合いな職場だと自分でも思う。
本来なら、一条プリンスホテルは私のような者が就職できるような場所ではない。

「でも、スーツで来てくださいって言われたんでしょ?」
「それはそうだけれど・・・」

きっと今日が初出勤だからとりあえずスーツで来てくださいって意味で、向こうに行けばすぐに着替えることになるはず。
そもそもこの4年間、年中Tシャツと短パンで過ごしていた私にスーツは拷問でしかない。
長袖のブラウスを着るのだって辛いのに上着は窮屈だし、スカートも動きにくくてたまらない。

「やっぱりスーツは新調した方がよかったわね」
一通り身支度が終わり鏡の前に立った私に、母さんがつぶやく。

「うん、でも今日だけだと思うから」
大丈夫よと、私は笑って見せた。
< 1 / 195 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop