暴君CEOの溺愛は新米秘書の手に余る~花嫁候補のようですが、謹んでお断りします~
物理的距離が埋まらない
「おはよう」
「おはようございます」

一条プリンスホテルに就職して早いもので三ヶ月。
季節も春から夏に移り変わろうとしている。
相変わらず新人秘書の私は秘書課のメンバーに助けられながら、何とか業務をこなしていた。

「今日も朝から元気だな」
「はい、それだけが取り柄ですから」
きっと誉め言葉ではないのだろうけれど、私はニコニコと返事を返す。

この三ヶ月で副社長にもだいぶ慣れた。
強いことを言われても、とにかく気にしないこと。
普段から言葉がきついのだから、一喜一憂していたのでは身が持たない。
それに、こちらが思うほど深い意図がない時も多い。
本当に損な性格だなあと思うけれど、最近では演出でやっているのではないかって気さえしている。


「どうぞ」
「ああ・・・え?」

いつも朝には淹れたてのコーヒーを出すことにしているけれど、昨日は経済界のパーティーがありお酒を飲んでいるはずの副社長にトマトジュースを出してみた。

「トマトはちょっと・・・」

副社長がトマト嫌いなことは私も知っている。
もちろん意地悪で出したわけでもない。
今朝の副社長にはコーヒーよりもいいと思っただけ。

「ライムとオレンジジュースで割っていて、トマトの味はしませんから騙されたと思って飲んでください」
「うん、じゃあ・・・」
とっても不安そうな顔をして、副社長がグラスに口を付ける。

「どうですか?」
「うん、美味い。少し頭がすっきりした」

よかった。
結構辛そうな顔をしていたもの。

「そう言えば、朝は何か召し上がりました?」
「いや」

やっぱり。

「サンドイッチか何か買ってきます」
私はスマホを片手に駆け出した。
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