薙野清香の【平安・現世】回顧録
【1章】春はあけぼの、再会を告げる花吹雪

1.

 ――――夜明けが来る。それは、とても唐突に。美しい春の訪れとともに。


『カシャッ』


 スマートフォンから鳴り響く軽快な音色に、少し前を歩く少女のポニーテールが跳ねた。美しい桜吹雪に、紺色のセーラー服が良く映える。まるで絵巻物のように幻想的な景色だった。


「もう……お姉ちゃんったら!まーーた勝手に写真を撮ったのね!」


 ツカツカとこちらへと向かってくる少女に清香は笑った。少女は頬を軽く膨らませてはいるが、本気で怒っているわけではない。清香はにっこり微笑むと、芹香に向かって手を伸ばした。


「だって、あまりにも綺麗なんだもの」

「それはそうだけど、私を入れなくたって良いでしょう?」


 芹香はそう言って、清香からスマートフォンを受け取った。ディスプレイには先程撮ったばかりの写真が表示されたままだ。芹香は写真を眺めながら、ひっそりと息をのんだ。


「ね?芹香が写ってる方が絶対に良い写真でしょ?」


 清香の言葉に芹香が口を噤んだ。どうやら納得してもらえたらしい。

 桜の美しさもさることながら、芹香もまた、絶対的に美しいのだ。
 大きな瞳に通った鼻筋、梅の花のように鮮やかな色をした唇。髪の毛はいにしえの姫君のように上品に切り揃えられている。けれど、決して野暮ったくはなく、寧ろとても洗練されていた。おまけにスラリと伸びた手足はまるでバレリーナのようにしなやかで、非の打ち所がない美しさである。


< 1 / 226 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop