新そよ風に乗って 〜焦心〜
紺野さんが、経理の各部署に提出する書類を抱えていた書類の束の中から探して抜き取ると、その都度、何か説明をしながら手渡している。
「あら、黒沢さん」
「まあ、紺野さん」
「おめでとうございます。今年も、どうぞよろしくお願いします」
「おめでとうございます。こちらこそ、今年もよろしくお願いします」
あの2人は、本当に仲が良いのかどうかは端からは分からないけれど、何かあるとそれぞれの取り巻きも含め、一致団結して向かってくるという何とも怖い団結力をお互い持ち合わせている。
うわっ。
何気なく見ていたら、黒沢さんと紺野さんが一緒にこちらを向いたので、目が合ってしまった。慌てて目を逸らしたが、今、絶対気づかれていたはず。
嘘……。
その2人が、揃って会計の方に向かって歩いて来る姿が見えた。
タイミング悪く、高橋さんは会議でいない。咄嗟に席を見たが、やはり高橋さんの姿はなかった。
近づいてくる2人の姿を見て、無意識に身構えてしまっている。
「あら? 矢島さん。お仕事、まだ続いてたの? てっきり、去年いっぱいで辞めたのかと思ってたわ」
「こ、こんにちは」
年明け早々、言われてしまったが、なるべく平静を装わないと……。
「そうなのよ。経理の仕事なんて、これっぽっちも出来ないのにまだ居るのよ。しかも、よりによって会計に」
よりによってって……黒沢さんは、会計の担当になりたいのかな?
「申し訳ありませんが、ご用件は?」
中原さん……。
「見た所、高橋さんは、いらっしゃらないみたいね。高橋さんがいらっしゃらないんじゃ、お話にならないわ。また出直すけど……矢島さん」
「は、はい」
「貴女。いい加減、高橋さんにつきまとうのは、やめてくれないかしら?」
つきまとう?
「高橋さんが、よからぬ噂でも立てられたりしたら、高橋さんの出世に響くから」
良からぬ噂って、それは紺野さんが……。
どうして、そうなるの?
まゆみに聞いたことがもし本当だとしたら、矛盾している。噂を流しているのは、紺野さんなのに。それで、噂になったら困るだなんて、どういうことなんだろう?
「俺が、どうしたって?」
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