好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。

6.本当は私も

 伯爵との話を終え、レヴィはしっかりと礼をし、執務室を後にする。


「レヴィ!」


 と、その時、アリスが彼のもとに駆け寄ってきた。レヴィのことを待っていたのだろうか。ソワソワとどこか落ち着かない様子だ。


「お嬢様……」

「お父様と何を話していたの? ――――どうだった?」


 期待と不安の入り乱れた表情。レヴィはほんのりと目を見開き、それから眉間に皺を寄せる。


(これは……私がお嬢様の結婚を見直すよう、旦那様に進言をしたと思っているのだろうな)


 アリスだけでなく、レヴィもアリスとの結婚を望んでいると――――そのために動いていることを期待していたのだろう。

 レヴィはいつものように微笑もうとし――――それではいけないと思い直す。


「それはもちろん、アリスお嬢様の結婚の段取りについてでございます。ドレスの手配等、これから準備することがたくさんございますから」

「…………え?」


 白々しいほどの満面の笑み。アリスは驚きに目を見開く。
 きっと、恐ろしいほど傷ついただろう。けれどそれで良い。レヴィの言動は、行動は、アリスの望みとは真逆の方向にあるのだと思い知ってもらわねばならないから。


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