好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。

7.打ち明けられぬ想い

 どれだけ必死に願っても、時計の針は止まってはくれない。
 アリスの結婚が目前に迫ったある日のこと、レヴィは伯爵の元を訪れていた。


「旦那様、どうかこちらをお預かりください」


 彼が渡したのは薄い一枚の封筒。伯爵はそれを一瞥し、それから静かに息を吐く。


「一体誰に似たのか……頑固な娘ですまないね」

「いいえ。そんなところも含めてお嬢様らしい……そう思っておりますよ」


 悲しげに、愛しげに瞳を細めたレヴィの肩を、伯爵はポンと叩いた。


「まだ時間は残っている。これを正式に受け取るのは、どうしてものときだけにさせてもらうよ。君が居なくなると私が困る。あの子だって、この家からレヴィが居なくなると悲しむだろうからね」


 レヴィが伯爵に渡したのは辞表だ。

 もしもアリスが最後まで結婚をゴネたら、彼はこの伯爵家から居なくなるつもりでいる。姿を消し、二度と彼女の前には現れない――――そうすれば、さすがのアリスも結婚に頷かざるを得ないだろう。
 もちろん、そうなる前に納得してほしいところではあるのだが。


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