好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。

8.いつでもここに

 それ以降、アリスはレヴィに寄り付かなくなった。
 これまでは彼の姿を見つける度に、嬉しそうに駆け寄っていたというのに、今ではレヴィを見つけるやいなや顔を背け、そそくさとその場から居なくなってしまう。
 それどころか、必要最低限しか部屋から出てこなくなってしまった。


(当然の結果だな)


 こうなることは分かっていた。
 こうなることを望んでいた。

 だというのに、レヴィの胸は張り裂けんばかりに痛かった。


 アリスの存在を感じられない。愛らしい笑顔が見られない。
 せめて声が聞きたい。以前のように『レヴィ』と名前を呼ばれたい。


 もどかしかった。とても、とても。


 ただそれは、近い将来レヴィに待ち受けている未来だ。

 もうすぐアリスは侯爵家に嫁ぎ、この屋敷から居なくなってしまう。レヴィの前から居なくなってしまう。
 
 それがほんの少し早くなっただけ。
 結婚以降、アリスの姿を垣間見れるのは数年に一度のことだろう。


(早く慣れなければ)


 アリスの居ない日常に。
 彼女の幸せを他人に託すことに。


 レヴィは自分にそう言い聞かせながら、グッと歯を食いしばる。口内から血の味がした。


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