好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。

8.ジェラルドの縁談

 それから約一年ほど経った麗らかな春のある日のこと、メアリーはとても浮き足立っていた。


(もうすぐジェラルドが帰ってくる!)


 アカデミーの長期休暇に合わせ、多くの貴族令息たちが帰省する。ジェラルドからも『もうすぐ帰る』と直接手紙を受け取っていた。


 伯爵家嫡男の久々の帰省とあって、使用人たちは彼を出迎えるための準備を嬉々として進めている。メアリーも掃除や洗濯、色んな仕事に精を出していた。



「――――ただいま、みんな」

「おかえりなさいませ、ジェラルド様」


 ジェラルドを乗せた馬車が到着する。
 玄関の前には、伯爵家の面々や、使用人一同による盛大な出迎えの列ができている。メアリーは列の隅っこに加わり、みんなと一緒に深々と頭を下げた。


(ジェラルドったら、また少し身長が伸びたのかしら? 更に大人っぽくなったみたい)


 前回会ったときよりも精悍な顔つき、凛とした佇まいに、なんだか惚れ惚れしてしまう。

 アカデミーに入学して以降、彼は本当に見違えるように成長していた。
 貴族たちに囲まれている環境がそうさせるのか、努力をしているという自負のためなのか、彼の表情には自信がみなぎっている。

 嬉しい――――けれど、自分との違いを思い知らされているようで、メアリーの胸が小さく軋んだ。


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