好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。
 けれどジェラルドは、メアリーの花嫁姿が是が非でも見たかった。

 確かにメアリーは何を着ても可愛い。侍女のお仕着せもとても似合っていたし、ジェラルドは大好きだ。

 それでも、ジェラルドは愛しい人との幸せな瞬間を、きちんと分かち合いたかった。


(もっと出世して、生活が安定したら、そのときにはきちんとした式を挙げよう)


 貴族の息子の妻ではなく、文官として成功した男の妻としてならば、彼女も少しは胸を張ってくれるだろうか――――そうだったら良いとジェラルドは願う。
 メアリーが心から喜んでくれる瞬間を夢見て、彼はうっとりと目を細めた。


 王宮に着くと王太子の侍女がジェラルドたちを出迎えてくれた。先導を受け、二人は静々と城を歩く。

 ジェラルドにとって王宮は職場で、慣れ親しんだ場所になりつつあるのだが、メアリーにとっては相当緊張を伴うらしい。身体がカチコチになっている。そんな姿すらも愛らしく、ジェラルドはついつい笑ってしまう。

 とはいえ、王太子の私室に向かうのは彼にとってもはじめてのこと。いつも働いている執務用の棟を抜けると、内心緊張をしてしまう。王族たちの生活の場とあり、宮殿は豪奢で、ひときわ輝いているように見えた。


< 223 / 234 >

この作品をシェア

pagetop