好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。

9.地に堕ちる

 ステファンがリズベットに冷たく接した――――
 それを機に、これまで黙っていた侍女たちが動きはじめた。

 王太子ステファンをたぶらかした悪女。
 リズベットを苦しめた諸悪の根源――――メリンダに対する非難の眼差しは、日に日に苛烈になっていく。

 ハッキリと批判をしてくる人間こそ居ないものの、職場の雰囲気が、対応が、凍てつくように冷たいのだ。


 権力者に――――しかも婚約者の居る男性に色目を使った。
 可愛がられた。

 身分が低いくせに。
 大したことないくせに。

 身の程知らずめ――――。

 彼女たちがメリンダをよく思っていないことは、これまでも伝わってきていた。
 けれど、メリンダが直面しているそれは、今までとは比べ物にならないほど激しい。


「ステファン殿下のお気に入りだもの。この間もと〜っても優秀だって、殿下に褒められていたものね。このぐらい、一人でできるわよね?」


 リズベットが気の毒だから。
 悪いことをした人間だから。
 苦しんで当然だ。制裁を受けて当然だ。

 そんなふうに理由をつけて、侍女たちはメリンダを攻撃する。自分たちの分の仕事を無理やり押し付け、楽しげに笑い声をあげるのだ。
 元々彼女たちの中で燻っていた妬みや嫉妬の感情。リズベットへの同情を隠れ蓑にし、メリンダを攻撃することが正当化しているのである。


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