好きな人の婚約が決まりました。好きな人にキスをされました。

3.真夜中の来訪者

 レヴィが伯爵家に雇われ、十年の月日が経った。

 孤児院出身ということもあり、はじめは人目につかないような下働きをしていたものの、彼は伯爵家でメキメキと頭角を現し、今では執事として頼られる存在になっていた。

 アリスや伯爵、周囲が望むことがなんなのかを先回りして考え、それを実行するだけの力がレヴィにはある。

 そうして彼は、誰よりも近くでアリスを見守ることができるポジションを勝ち取っていた。


「レヴィ、見て見て! 孤児院の子どもたちからお手紙とお菓子が届いたの! 嬉しいなぁ」


 一方、アリスは明るく心根のまっすぐな、素晴らしい令嬢に育った。

 はじめて出会った頃とちっとも変わらない――――いや、日々美しく、より洗練されていく彼女の姿を見守りながら、レヴィの心は幸福感に満ちていた。


 年齢を重ねるごとに増していく可憐さ、美しさ。愛らしいドレスも、優雅なドレスも、孤児院の子供が着るような古着でさえ、アリスが着るだけで極上の一着に早変わりする。


 真っ白なドレスに身を包んだデビュタントの夜など、レヴィは感極まり、一人でこっそり涙を流したものだ。もちろん、アリスにはバレバレだったのだが。


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